大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成3年(ワ)10386号 判決

原告

桂企業株式会社

右代表者代表取締役

河村金城

右訴訟代理人弁護士

正野朗

被告

ビー・エム・ダブリュー東京株式会社

右代表者代表取締役

富沢尚夫

右訴訟代理人弁護士

稲村建一

笠井浩二

森本達也

被告

安田火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役

後藤康男

右訴訟代理人弁護士

平沼高明

堀井敬一

木ノ元直樹

加藤愼

主文

一  被告ビー・エム・ダブリュー東京株式会社は原告に対し、金一一〇万八六三六円及びこれに対する平成三年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告ビー・エム・ダブリュー東京株式会社に対するその余の請求及び被告安田火災海上保険株式会社に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の一と被告ビー・エム・ダブリュー東京株式会社に生じた費用を被告ビー・エム・ダブリュー東京株式会社の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告安田火災海上保険株式会社に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、連帯して金八三四万九二六〇円及びこれに対する平成三年八月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、パチンコ店の経営等を目的とする株式会社である。

2  原告は、平成元年一二月、被告ビー・エム・ダブリュー東京株式会社(以下「被告ビー・エム・ダブリュー」という。)より、別紙物件目録記載の車両(以下「本件車両」という。)を購入し、同時に損害保険代理業を営む被告ビー・エム・ダブリューの仲介により、訴外住友海上火災保険株式会社との間で本件車両につき、自動車保険(いわゆる任意保険)の契約を締結した。この際、被告ビー・エム・ダブリューの社員宮崎恵美子(以下「宮崎」という。)が保険料を原告の専務河村知宏(以下「河村」という。)方で集金した。

3  平成二年一二月に至り、右自動車保険契約の満期が近づいたところ、被告ビー・エム・ダブリューは、その独自の判断で保険会社を自ら代理店を務める被告安田火災海上株式会社(以下「被告安田」という。)に変更した上、契約の継続を原告に勧め、原告もこれに応じて左記の内容の自家用自動車総合保険の継続契約申込書(以下「本件契約申込書」といい、その内容の保険契約を「本件契約」という。)に署名捺印し、平成二年一一月三〇日、河村の妻を介してこれを被告ビー・エム・ダブリューに交付し、被告ビー・エム・ダブリューはこれを受領した。

被保険自動車  本件車両

割引 七等級(割引一〇パーセント)

保険期間  平成二年一二月七日午後四時から平成三年一二月七日午後四時まで一年間

ご契約内容

保険種類  SAP(自家用自動車総合保険)

車両  保険金額九二〇万円

対人賠償(一名)  保険金額無制限

自損事故(一名)  保険金額一五〇〇万円

対物賠償 保険金額一〇〇〇万円

搭乗者傷害(一名)  保険金額二〇〇〇万円

車両条件  車両クラス6

免責金額一五万円

保険金額七一〇万円

保険料  車両二五万〇七四〇円

対人、対物賠償・搭乗者傷害一七万八〇八〇円

4  平成三年四月一四日、河村が本件車両を運転中、雨によるスリップで自損事故を起こし、本件車両は全損した。

5  そこで、河村が、被告ビー・エム・ダブリューを通じて、被告安田に対し、車両保険の支払いを求めたところ、被告ビー・エム・ダブリューから原告に対し、保険料が未納のため車両保険金は支払えない旨の返答がなされた。

6  保険料の支払いについての事実経過は以下のとおりである。

原告が被告ビー・エム・ダブリューに本件契約申込書を交付した後、被告ビー・エム・ダブリューから原告に対して、本件契約について集金に訪れた者はおらず、また、保険料の請求若しくは保険料の請求書、振込依頼書又は振込口座通知書等の書面の送付又は交付もなく、さらに、保険料の納入期限についても一度も通知がなかったので、原告も本件契約の保険料は、未納のままとなってしまった。

7  河村が、本件事故発生当日の平成三年四月一四日、被告ビー・エム・ダブリューに対し、車両保険について連絡をとるとともに、直ちに同種類の新車両を購入する旨の意思表示をしたところ、被告ビー・エム・ダブリューは何の異議も唱えなかったが、翌一五日に至り、車両保険の支払いを拒絶し、その後の原告の求めにもかかわらず、被告ビー・エム・ダブリューは、自らには過ちは一切なく責任はすべて原告の保険料支払の失念にあるとして、交渉を引き延ばしたり、被告ビー・エム・ダブリュー代理人の配慮に欠けた対応等により業務を妨害したり、新車両の購入を申し込んだのに二か月以上も納車しないといった誠意のかけらもない応対をし、被告らは車両保険金を支払わない。

8  被告らの責任

(一) 被告ビー・エム・ダブリューの責任

(1) 保護義務違反

被告ビー・エム・ダブリューは、自動車販売者及び保険仲介者として、自動車保険契約の締結手続につき、原告に不測の損害を被らせないよう配慮すべき注意義務があり、さらに本件契約申込書を受領したのであるから、本件契約申込書を破棄する際には、その事実を告げ、原告が任意保険なくして車両を運転することがないよう他社との契約の機会を提供する義務があるのに、これらの義務を怠り、請求書や振込依頼書等を交付し、保険料の請求や集金をするなど本件保険契約の実効あらしめる措置を何らすることなく、原告が右保険金の支払いを失念したことを奇貨として、本件契約申込書を原告へ通知することなく破棄した。その結果、原告が任意保険なくして本件車両を運転して本件事故を招き、原告に後記9の損害を被らせた。

(2) 契約締結上の過失

被告ビー・エム・ダブリューは、本件契約申込書を原告から受領し、原告と本件契約を締結したか、又は、原告が本件契約の成立が確実であると期待するに至ったのであるから、保険代理店として契約内容に関する重要な事実の説明、告知の義務及び損害発生を防止する義務、又は、契約の成立に誠実に努める義務を負っているにもかかわらず、これらの義務を怠り、本件契約申込書の受領後、原告の意思を全く確かめることなく本件契約申込書を破棄し、また、これを原告に通知すらせず、原告が任意保険なくして本件車両を運転する結果を招き、よって、原告に後記9の損害を被らせた。

(3) 不法行為

被告ビー・エム・ダブリューは、右(1)及び(2)のとおり、契約締結段階において重大な過失があり、又は、保険業界の慣習として、保険会社は、保険代理店が直ちに自己のミスを認めれば、保険料を保険代理店が預ったまま失念した等の形をとって保険契約者を救済するのが通常であるにもかかわらず、そのことを知りながら自己のミスを認めず、保険会社である被告安田が原告を救済する機会を失わせ、よって、原告に後記9の損害を被らせた。

(二) 被告安田の責任

(1) 保険契約に基づく保険金支払請求

被告安田の代理店である被告ビー・エム・ダブリューが、原告から本件契約申込書を受領したことにより、原告と被告安田との間で本件契約が成立したので、被告安田は原告に対し、本件契約に基づく車両保険金として、本件車両の再調達価格相当額である金七一〇万円から本件契約の車両保険の保険料金二五万〇七四〇円を差し引いた、金六八四万九二六〇円を支払うべき義務がある。

(2) 履行補助者の故意・過失による損害賠償

前記(一)(2)のとおり、被告ビー・エム・ダブリューには、保険代理店としての契約締結上の過失が存するところ、被告ビー・エム・ダブリューには本件契約締結についての被告安田の履行補助者であるから、被告安田も債務不履行責任を負い、原告が被った後記9の損害を賠償する責任を負う。

(3) 不法行為

被告安田は、その代理店である被告ビー・エム・ダブリューが保険の募集について原告に後記8の損害を与えたのであるから、保険募集の取締に関する法律(以下「募取法」という。)一一条一項に基づき、被告安田自身もこれを賠償する責任を負う。

又は、被告安田は、被告ビー・エム・ダブリューにより継続して多くの保険契約の申込者の仲介を受けることにより、容易に利益を拡大させてきたほか、契約締結、保険料の徴収等の手続のすべてを被告ビー・エム・ダブリューに代行してもらうことにより、人件費等のコストも大幅に節約できる等、多大な利益を得ているが、このように被告ビー・エム・ダブリューの活動により大きな利益を得ている被告安田は、民法一条二項の信義誠実の原則により、被告ビー・エム・ダブリューの活動によってもたらされた原告の後記9の損害を賠償すべき義務がある。

9  損害

(一) 車両保険金

原告は、本件契約の車両保険金の支払いを受けられないことにより、全損の場合に支払いを受けられる保険金七一〇万円(本件車両の再調達価格相当額)から車両保険の保険料金二五万〇七四〇円を差し引いた金六八四万九二六〇円の損害を被った。

(二) 非財産的損害

前記7の交渉経過における被告ビー・エム・ダブリューの全く誠意のない対応により、原告は金一〇〇万円を下らない損害を受けた。

(三) 弁護士費用

本件訴訟遂行のための弁護士費用は、最低でも金五〇万円を下らない。

10  よって、原告は、被告ビー・エム・ダブリュー及び同安田に対して、被告ビー・エム・ダブリューについては保護義務の債務不履行に基づく損害賠償請求又は契約締結上の過失に基づく損害賠償請求又は不法行為に基づく損害賠償請求として、被告安田については保険契約に基づく保険金支払請求及び不法行為に基づく損害賠償請求又は契約締結上の過失に基づく損害賠償請求又は不法行為に基づく損害賠償請求として、連帯して金八三四万九二六〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日でありかつ不法行為のあった日の後である平成三年八月一六日から支払済みまで民法所定又は商事法定利率の一部の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否及び主張

(被告ビー・エム・ダブリュー)

1 請求原因1の事実は不知、同2ないし5の各事実は認める。同6の事実のうち、被告ビー・エム・ダブリューから原告に対して、保険料の集金に訪れた者がいないこと、保険料の請求書、振込依頼書及び振込口座通知書等を送付又は交付していないこと及び原告の保険料が未納であったことは認め、その余の事実は否認する。同7の事実のうち、河村が、平成三年四月一四日、被告ビー・エム・ダブリューに事故の連絡をしたこと、被告ビー・エム・ダブリューが翌一五日に原告に対し保険料が未納のため保険金が支払えない旨連絡したこと、その後、被告ビー・エム・ダブリューには一切過ちはなく、原告の失念が原因であるとの態度に終始したこと及び被告ビー・エム・ダブリューが保険料を支払っていないことは認め、その余の事実は否認する。同8及び9の各事実は否認し、主張は争う。

2(一) 事実経過について

本件車両については、被告ビー・エム・ダブリューの新宿支店が担当したが、同支店は前年度の保険契約満期日の一か月前の平成二年一一月初旬、原告に対して「自動車保険・満期のお知らせ」と題する所定のハガキにより保険の満期日、保険料及びその振込口座を通知し、さらに同支店の社員で前記宮崎の後任者の佐藤宣明(以下「佐藤」という。)が、同月二八日午前一〇時ころ、本件車両の一二か月点検整備の説明を兼ねて河村の自宅を訪問して、保険契約の継続について説明をしたところ、従前通りの契約内容で継続するということであったので、所定事項を記入した本件契約申込書を交付して、原告の代表印の捺印を依頼した上、保険料の納入方法を確認し、捺印済みの本件契約申込書は、佐藤が点検済みの本件車両を河村に届ける際に受領できること及び保険料については振込送金の方法によって支払ってもらうことの了解を得た。佐藤は、同月三〇日、河村宅に点検済みの本件車両を届けたところ、河村本人は不在で同人の妻が応対し、捺印済みの本件契約申込書を渡されたので預り、保険料の点を確認したところ、「主人は振り込むと申してますよ。」との回答を得たので、そのまま帰社した。同年一二月三日、被告ビー・エム・ダブリューは、河村から本件車両のハンドルにブレがあるとのことで点検整備を依頼され、同月五日、佐藤が河村宅を訪問して本件車両を預り点検整備の上、同月六日に河村に納車したが、この際も、佐藤は河村に直接保険料の支払いを依頼し、同人も承諾した。同月一一日、被告ビー・エム・ダブリューで保険料の入金状況を確認したところ、原告の保険料が未払いとなっていることが判明したので、佐藤が同日午後三時ころ河村宅に電話したが、誰も出ず、続いて原告の事務所に電話をして、応対に出た原告社員に、自動車保険の満期が到来済みであるので保険料が未払いなら至急振り込んでほしいとの河村への伝言を依頼したところ、右社員はこれを承諾した。同月二六日に至り、被告ビー・エム・ダブリュー新宿支店は年末業務の締切日を迎えたが、結局原告から保険料の振込みがなくかつ何の連絡もないので、保険業務担当者は原告が他の保険会社と保険契約を締結したのであろうと推測し、原告の本件契約申込書を破棄した。

その後、平成三年四月一四日、河村から本件車両の事故発生の連絡を受けるまで、原告又は河村から、被告ビー・エム・ダブリューに対して、保険契約を締結したのであれば当然原告のもとに送付されるはずの保険証券等についての問合せを含めて何らの接触もなかった。

被告ビー・エム・ダブリューが河村から事故の連絡を受けた同月一四日は、日曜日で、被告ビー・エム・ダブリューは、休業中のため、河村との間で新車購入についての営業の話をすることはあり得ず、同日は本件車両のレッカー移動といった事故処理をしただけで、対物保険を含めた損害填補の詳細は翌一五日の営業開始後、営業担当者に話してほしいと伝えたに止まり、被告ビー・エム・ダブリューの営業担当者が、河村と本件事故に関する保険関係の対応等について話したのは、同月一五日以降である。

その後の原告と被告ビー・エム・ダブリューの交渉の過程において、被告ビー・エム・ダブリューが原告の業務遂行に有形無形の損害を与えた事実はない。被告ビー・エム・ダブリュー及びその代理人の対応は正当なものである。

(二) 責任の主張について

被告ビー・エム・ダブリューが原告に対し、保護義務を負うことはない。保険代理店が保険契約者の下へ保険料の集金に行くこと等が保険業界の商慣習又は通常の扱いであるということはない。また、本件契約申込書に原告が署名捺印して被告ビー・エム・ダブリューに交付した段階で保険契約が成立することはなく、被告ビー・エム・ダブリューが本件契約申込書を破棄する際にはその旨を原告に通知する義務はない。

また、保険代理店が直ちに自己のミスを認めた場合、保険会社が、保険料を保険代理店が預ったまま失念した等の形をとって保険契約者を救済することは不正行為であり、そのような商慣習は存しない。

(被告安田)

請求原因1ないし7の各事実は不知。同8の(二)(1)の事実のうち、被告ビー・エム・ダブリューが被告安田の代理人であることは認め、履行補助者であるとの主張は、履行代行者であるとの限度で認め、その余の事実は不知ないし争う。同8の(二)(2)及び(3)の主張は争う。同9の各事実はいずれも不知。

三  抗弁

1  被告ビー・エム・ダブリューの抗弁

自動車を運転する立場にある者は、保険証券の存否等に常に注意を払うのが当然であり、河村は、保険証券が存せず保険未加入となっていることを容易に知ることができたにもかかわらず、本件契約の保険期間開始日である平成二年一二月七日午後四時から本件事故が発生した同三年四月一四日までの四か月と七日もの長期の間、その不注意により本件車両について保険料が未払いで保険未加入のまま放置しており、本件による損害につき原告に過失がある。

2  被告安田の抗弁

(一) 本件契約には、保険期間が始った後でも、保険会社は、保険料領収前に生じた事故については、保険金を支払わない旨の免責条項があるが、原告は、本件事故発生時までに、被告安田に保険料を支払っていない。

(二) したがって、被告安田は、原告に保険金を支払う義務はない。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  被告ビー・エム・ダブリューの抗弁に対して

一般の自動車運転者は、保険証券等は、自動車のダッシュボードや金庫等に入れたままで、事故でも起きない限り念頭に浮かべることはないのであって、原告に過失相殺の対象となるような過失はない。

2  被告安田の抗弁に対して

免責条項の存在及び原告が本件事故発生時までに被告安田に保険料を支払っていないことは認める。しかし、被告安田の保険代理店である被告ビー・エム・ダブリューの重大な過失により、原告が保険料を支払う機会を失ったのであるから、被告安田が免責条項に基づき免責を主張するのは信義則上許されない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1ないし5について

1  請求原因1の事実は、弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

2  請求原因2ないし5の各事実は、原告と被告ビー・エム・ダブリューの間では争いがなく、被告安田との間においては、原本の存在及び〈書証番号略〉、証人河村知宏及び同佐藤宣明の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因2ないし5の各事実を認めることができる。

二請求原因6について

1  被告ビー・エム・ダブリューから原告に対して、保険料の集金に訪れた者がいないこと、被告ビー・エム・ダブリューが原告に対して、保険料の請求書、振込依頼書及び振込口座通知書等を送付又は交付していないこと、原告の保険料が未納であったことは、原告と被告ビー・エム・ダブリューの間では争いがなく、被告安田との間においても、〈書証番号略〉、証人河村知宏及び同佐藤宣明の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、右各事実を認めることができる。

2  右争いのない事実及び認定事実に加え、〈書証番号略〉、証人河村知宏の証言、同佐藤宣明の証言(後記措信し難い部分を除く)及び弁論の全趣旨を総合すると以下の事実を認めることができる。

(一)  宮崎は、平成元年一二月四日、前年度の保険料を河村方に赴いて集金しているが、その際、原告は、本件車両の注文書(〈書証番号略〉)を作成するとともに、申込金として金五九万八三六円を小切手で支払っていること、宮崎は異動で原告の担当を外れ、佐藤がこれを引き継いだが、宮崎から佐藤への原告に関する申し送り事項として、「要 デリバリー」とされていること、

(二)  被告ビー・エム・ダブリューは、前年度の保険契約満期日の一か月前の平成二年一一月初旬、原告に対して「自動車保険・満期のお知らせ」と題する所定のハガキにより、保険の満期日、保険料及びその振込口座を通知したこと、

(三)  佐藤は、平成二年一一月二八日、河村方を訪れて一二か月点検整備のため本件車両を預った上、本件契約申込書を河村に交付し、同月三〇日、点検の済んだ本件車両を河村方へ納車して、原告の署名捺印の済んだ本件契約申込書の交付を受けたこと、しかし、佐藤は、河村方に本件契約申込書の控えを置いていかなかったこと、その後、同年一二月三日、河村から被告ビー・エム・ダブリューに対し、本件車両のハンドルにブレがあるとのことで、再度点検整備が依頼され、同月五日、佐藤が河村方を訪問して本件車両を預り、再度点検整備をして、同月六日、河村方に納車をしたこと、

(四)  同月二六日に至り、被告ビー・エム・ダブリュー新宿支店は年末業務の締切日を迎えたが、原告から保険料の振込みがなく、かつ、原告から何の連絡もないので、保険業務担当者は原告が他の保険会社と保険契約を締結したのであろうと推測し原告の本件保険契約申込書を破棄したが、この際、原告に対しては何等通知はなされなかったこと、

(五)  原告は、本件車両に関して、①平成二年三月ころに行われた二〇〇〇キロメートル点検等につき、同月一三日に被告ビー・エム・ダブリューの指定サービス工場である訴外山の手自動車工業株式会社(以下「山の手自動車」という。)から代金の請求を受けたが、原告が請求書を紛失したため、再度請求を受け、同年七月九日付で同社に対し振込送金をして同月一二日に代金が領収済となったこと、(2)同年七月ころに購入したボデーカバーにつき、同月一八日に山の手自動車から代金の請求を受け、同月二三日に同社に対し振込送金をしたこと、(3)同年一〇月ころに行われた左リヤー泥よけ取付けにつき、同月一九日に山の手自動車から代金の請求を受け、同月二九日に同社に対し振込送金をしたこと、④前記の同年一一月に行われた一二か月点検につき、同月二九日に山の手自動車から代金の請求を受け、同年一二月六日に同社に対し振込送金をしたこと、原告は、その他各種の代金の支払いにつき、原則として集金を主体としており、そうでない場合は請求書の送付を受け、これに対して振込等をするという形をとっていたこと及び同年一二月中に原告の手元にあった請求書についてはすべて支払いの手続を取ったこと、原告は、以上の経過から、同年一二月中の支払いはすべて完了したもので、その中には本件契約の保険料も含まれていたと考えたこと、しかし、原告は、その他に保険料が支払われたことについての確認をとらなかったこと、

(六)  そして、原告は、本件事故が発生するまで保険料の支払いがないことに気づかず、本件契約に関して、保険料の支払いがあれば、通常は、三週間程度で送付されるはずの保険証券等についての問合せを含めて、被告ビー・エム・ダブリューに対して何らの接触もしなかったこと、

(七)  河村は、任意保険について、保険料の支払いがないと保険金が支払われないことになっていることを知っていたこと、

以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  この点について被告ビー・エム・ダブリューは、佐藤は、河村方を訪れた際、河村又は同人の妻に対して保険料の支払方法について振込みとすることの了解を得、振込の意思を確認し、さらに前年度の保険期間が満了したにもかかわらず、原告からの支払いがないため原告の事務所に電話をして支払いを求めたと主張し、佐藤宣明の陳述書である〈書証番号略〉及び同人の証言中には、佐藤が、同月二八日、本件車両の一二か月点検整備の説明を兼ねて河村の自宅を訪問した際、保険料の納入方法を確認し、保険料については振込送金の方法によって支払ってもらうことの了解を得た、佐藤が同月三〇日、河村宅に赴いた際、河村の妻が、保険料について「主人は振り込むと申してますよ。」との回答した、同月六日、佐藤が本件車両を納車した際、佐藤は保険料の支払を承諾した、同月一一日午後三時ころ、佐藤が河村宅に電話したところ、誰も出ず、続いて原告の事務所に電話をして、応対に出た二〇歳位の日本人男性の原告社員に、自動車保険の満期が到来済みであるので保険料が未払いなら至急振り込んでほしいとの河村への伝言を依頼したところ、右社員はこれを承諾したとの同被告の右主張に沿う供述が存する。

しかし、佐藤の右供述は、被告ビー・エム・ダブリューから原告に対して、振込依頼書及び振込口座通知書等を送付又は交付していないとの事実、〈書証番号略〉によれば、佐藤が原告の事務所に電話をしたという平成二年一二月一一日午後三時ころ、原告の事務所に居た日本人男性は、当時三七歳の大平聖寧だけであったと認められること及び証人河村の反対趣旨の証言に照すと、右供述だけに信を措くことは困難であり、他に佐藤の右供述を裏付けるに足りる証拠はなく、したがって、被告ビー・エム・ダブリューの右主張は採用できない。

三請求原因8の(一)―被告ビー・エム・ダブリューの責任について

1  本件契約の成否については、保険契約は諾成契約と解するのが相当であり、原告が本件契約申込書に署名捺印しこれを被告ビー・エム・ダブリューの社員の佐藤に交付し、佐藤がこれを受領したのであるから、これによって本件契約は成立したというべきである。

2 そこで、被告ビー・エム・ダブリューが保険代理店として、原告に対し、いかなる義務を負っていたかについて検討する。

(一) 商法五一六条によれば、保険料の支払いは持参債務であり、その支払いは、債務者である保険契約者が債権者である保険会社又はその代理店に持参して支払うべきものである。そして、これを実質的に見ても、保険制度は、保険会社及び保険代理店が収益をあげる手段となっていることは確かであるが、保険契約者の側からすると、自己の危険を軽減、分散することができるものであり、保険会社及び保険代理店にとっては、保険契約が成立しないこと又は保険料が支払われないことは、収益があがらないことを意味するに止まるのに対し、保険契約者にとっては、事故が発生した場合、多額の損害賠償責任等の負担を自ら負うことになるという重大な事項に関わるものである。したがって、保険契約を成立させそれを実効あらしめる責任は、主として保険契約者が負うと考えられる。

(二) しかし、前記1のとおり、本件契約は成立している以上、保険代理店である被告ビー・エム・ダブリューが、本件契約について何ら負担を負わないとすることはできず、被告ビー・エム・ダブリューは、保険代理店として、信義則上、本件保険契約の目的達成のため原告と協力すべき義務があるというべきである。

そして、本件においては、前記のとおり、原告が本件車両を購入した際、宮崎が本件車両を河村方に納車し、その際に購入費用を受領したこと、前年度の任意保険の保険料は、右の納車の際、宮崎が集金していること、宮崎から佐藤への原告に関する申送り事項として、「要 デリバリー」と記載されていること、佐藤は原告の求めに応じて、本件車両の整備のため河村方を二回訪れ、本件車両を預って整備をし、再び河村方に納車していること、本件車両の整備等に関する代金は、被告ビー・エム・ダブリューの指定工場である山の手自動車から、原告に対して請求書が送付されて、原告はそれに基づいて振込送金をしていたことが認められるのであり、以上の事実からすると、被告ビー・エム・ダブリューは、本件車両に関する諸手続は、これまで被告ビー・エム・ダブリューから河村方に社員を派遣し、又は請求書等を送付して行ってきており、他方、原告も被告が右のような取扱いをしてくれるものと期待していたというべきである。

そして、前記のとおり、被告ビー・エム・ダブリューは、本件契約に関して、前年度の契約満期の一か月前に、満期のお知らせと題したハガキを河村方に送付しただけで、担当の佐藤は、契約に際して、本件契約申込書を河村に交付し、その後記名押印された本件契約申込書を受領したが、河村に対して本件契約申込書の控えを交付しなかったのであり、その事実からすると、保険契約者である原告は、本件契約の保険料の金額及び支払方法は分からなかったというべきで、被告ビー・エム・ダブリューからの保険料の金額及び支払方法の告知なくして、原告がその支払いをすることを求めるのは困難といわざるを得ない。さらに、前記のとおり、被告ビー・エム・ダブリューは、年末業務の締切日までに保険料の支払いがなく、保険契約者からの連絡がない場合には、保険契約者が他社に加入したものとして扱うこととしていたのであるが、原告はこのことを知る由もなかったというべきである。以上のような本件の事情からすると、原告と被告ビー・エム・ダブリューとの間においては、本件契約の保険料の支払いについて、原告に対して、自ら保険料の額及び支払方法等を調査して保険料を支払うことを求めるのは妥当でなく、保険代理店である被告ビー・エム・ダブリューが、原告の前記のような期待を保護し、本件契約を実効あるものとするために、少なくとも河村に対して本件契約の保険料の額、支払方法並びに支払期限及び支払期限を徒過した場合の被告ビー・エム・ダブリューの処置を伝えるべき保護義務を負っていたと考えるのが、信義則に適うと考えられる。

3 しかし、被告ビー・エム・ダブリューは、本件契約成立後、原告に対して、本件契約に関して何ら連絡も取らず、保険料の請求書、振込依頼書及び振込口座通知書等の送付又は交付もせず、平成二年一二月二六日、本件契約申込書を廃棄し、その際、原告に対して何らの通知もしなかったというのであるから、右信義則上の保護義務を怠ったというべきである。

四請求原因8の(二)及び抗弁2―被告安田の責任について

1 保険契約に基づく保険金支払請求について

前記三1のとおり、本件契約は、佐藤が原告の記名押印済の本件契約申込書を受領したことにより成立したと認められる。他方、本件契約に、事故発生時までに保険料が未払いの場合は、保険会社は保険金を支払わない旨の免責条項があり、原告は、本件事故発生時までに保険料を支払っていないことは当事者間に争いはない。よって、原告の右請求は理由がない。

この点、原告は、被告安田の保険代理店である被告ビー・エム・ダブリューの重過失により原告が保険料を支払う機会が失われたのであるから、被告安田が免責の主張をすることは信義則上許されないと主張するが、被告安田と被告ビー・エム・ダブリューとは別の法主体であり、被告ビー・エム・ダブリューの義務懈怠が直ちに被告安田の責任に結びつくとすることはできない。また、そもそも被告ビー・エム・ダブリューの前記の信義則上の義務は、原告と被告ビー・エム・ダブリューとの間の前記の内容の具体的な事情に基づいて生じたものであって、保険代理店と保険契約者との間に一般的に生じる義務とはいえないのであるから、この義務違反を以て、被告安田が保険金の支払いを拒否することが信義則に反するとすることはできない。したがって、原告の右主張は理由がない。

2 履行補助者の故意・過失による損害賠償請求について

被告安田自身は、原告に対して何らかの義務を負っているものではないから、被告ビー・エム・ダブリューに、保険代理店としての信義則上の義務違反があるとしても、被告安田が債務不履行責任を負うことにはならない。したがって、原告の右主張は理由がない。

3 不法行為に基づく損害賠償請求について

(一) 原告は、被告安田は、募取法一一条一項に基づき賠償責任を負うと主張するが、募取法一一条一項に該当するには、損害保険代理店が「募集につき」保険契約者に損害を加えたことが必要であるところ、被告ビー・エム・ダブリューの義務違反行為は、保険契約締結後に生じたものであって、募集行為とはいえないし、前記のとおり、原告及び被告ビー・エム・ダブリューとの間の具体的な事情のもとで発生した信義則上の義務違反であるから、これを募集と密接な関連のある行為とすることもできない。よって、被告安田は、保険募集の取締に関する法律一一条一項の賠償責任を負わない。

(二) 原告は、被告安田は、民法一条二項の信義誠実の原則により、被告ビー・エム・ダブリューの活動によってもたらされた原告の損害も負担すべきであると主張するが、右の原告の主張は独自の見解であって、これを採用することはできない。

以上により、原告の被告安田に対する請求はいずれも理由がない。

五請求原因9の(一)について

本件車両が本件事故により全損したことは、原告及び被告ビー・エム・ダブリューの間では争いがなく、原告及び被告安田との間では、〈書証番号略〉、証人河村知宏及び佐藤宣明の各証言により認められる。

そして、〈書証番号略〉によれば、財団法人日本自動車査定協会による本件事故当時の本件車両の推定流通価格は、金五四七万二〇〇〇円であることが認められる。他方、本件契約は、自家用自動車総合保険であり、保険契約締結時に車両保険だけでなく、対人賠償保険、自損事故保険、無保険車傷害保険及び対物賠償保険も付保されなければならないのは明らかであるから、前記一2のとおり、本件契約において原告が支払うべき保険料は合計四二万八八二〇円である。

したがって、被告ビー・エム・ダブリューが、右の信義則上の保護義務違反により賠償するのが相当と考えられる原告の損害は、本件車両の推定流通価格金五四七万二〇〇〇円から本件契約の保険料金四二万八八二〇円を引いた、金五〇四万三一八〇円が相当であると認められる。

この点、原告は、〈書証番号略〉により損害額を算定すべきであると主張するが、〈書証番号略〉は保険会社が車両保険の保険金額を定める際の基準を示したものにすぎないから、これを損害額算定の根拠にすることはできない。よって、原告の右主張は理由がない。

六請求原因9の(二)について

1  請求原因7のうち、被告ビー・エム・ダブリューが平成三年四月一五日に原告に対し保険料が未納のため保険金が支払えない旨連絡したこと、その後、被告ビー・エム・ダブリューには一切過ちはなく、原告の失念が原因であるとの態度に終始したことは原告と被告ビー・エム・ダブリューの間では争いはなく、被告安田との間でも、〈書証番号略〉、証人佐藤宣明及び同河村知宏の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、右事実を認めることができる。

2  また、〈書証番号略〉、証人河村知宏及び同佐藤宣明の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

本件車両の事故が発生した平成三年四月一四日、河村が被告ビー・エム・ダブリューに電話をし、事故の処理の依頼と新車の購入方を申し出たこと、翌一五日に、佐藤から河村に電話があり、河村は、この時に、七五〇ILという型式の新車両の購入を申入れ、佐藤は在庫はあり直ちに納車できる旨返答したこと、保険については、佐藤は保険料が未納であり保険金は支払えない旨答えたこと、同月一七日以降、原告と被告ビー・エム・ダブリューとの間で保険金の支払いについて話し合いがなされたこと、その中で、河村から佐藤に対し、被告ビー・エム・ダブリューで預っている本件車両から車載電話とテレビを外して預ることと別の自動車の鍵と高速道路の回数券を河村方へ送付することの依頼があったが、佐藤は両者を混同してすべてを河村方に送るよう依頼があったと勘違いをして、車載電話、テレビ、鍵、高速道路の回数券を河村方に送付したこと、原告は、被告ビー・エム・ダブリューに代車の提供を求めたが、被告ビー・エム・ダブリューはこれに応じなかったこと、原告と被告ビー・エム・ダブリューとの間で新車両の購入について話し合いが持たれ、被告ビー・エム・ダブリューから定価から金一九二万円を割引くとの案が出されたが、原告が、代金と車両保険の保険金との相殺を求めて、折り合いがつかず、原告が被告ビー・エム・ダブリューに対し新車両の納車を再三に渉って求めたが、被告ビー・エム・ダブリューは、原告に対して新車両を納車しなかったこと、河村は、被告ビー・エム・ダブリューから新車両の納車がないので、タクシーを利用したこと、同年五月三一日、被告ビー・エム・ダブリューは、原告に対して、本件車両を保管している駐車場の駐車代金として金四二万九二五二円の支払いを請求したこと、同年五月三〇日に、原告、原告代理人、被告ビー・エム・ダブリュー代理人との話し合いが予定されていたが、被告ビー・エム・ダブリュー代理人からの話し合い中止の申し出が遅れ、双方間で十分な連絡が取れなかったため、原告及び原告代理人は無駄足を被ったこと、

以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  しかし、本件においては、前記のとおり、被告ビー・エム・ダブリューには、賠償金の支払義務があり、原告の物的損害の填補が可能である以上、被告ビー・エム・ダブリューの責任の有無を巡る交渉に関しては、特に被告ビー・エム・ダブリューの不当な対応により原告が著しい精神的損害を被り、右損害を賠償しなければ正義に反すると認められるような特段の事情がない限り、原告に慰謝すべき精神的損害が生じたものということはできない。そして、右のような交渉経過からすると、要するに被告ビー・エム・ダブリューが自己の責任を認めなかったため、原告が不快な思いをしたというに止まり、右にいう特段の事情があるとはいうことはできない。

なお、被告ビー・エム・ダブリューの原告に対する説明として、佐藤が原告に対して保険料の支払いを求めたにもかかわらず、原告がこれを失念した旨の説明がなされていることは、本件訴訟上明らかであり、前記のとおり、佐藤が原告に対して保険料の支払いを求めたとの事実は証拠上これを認めることはできないが、他方、佐藤が故意に虚偽の説明をしたと認めるに足りる証拠も存しない。したがって、被告ビー・エム・ダブリューが、保険金を支払う義務がないことの説明として右のような説明をしたとしても、損害賠償責任を負う程の違反性はないというべきである。

よって、請求原因7の事実を理由として、原告に慰謝すべき精神的損害はないものというべきである。

七抗弁1―被告ビー・エム・ダブリューの過失相殺の主張について

原告も信義則上、本件契約目的達成のため被告ビー・エム・ダブリューと協力すべき義務があることは当然であり、前記のとおり、自動車保険契約を実効あらしめる責任は、主として保険契約者である原告が負うべきである。

ところで、前記認定のとおり、河村は、任意保険について、保険料の支払いがないと保険金が支払われないことになっていることを知っていたが、原告が保険料の支払いが済んだと考えたのは、一二月の未払いの請求書をすべて処理したことによるもので、それ以外に、原告が、保険料支払について確認をとったことはなく、また、原告は、保険料の支払いがあれば、通常は、三週間程度で送付されるはずの保険証券について何ら意を払っていない。そして、原告が、被告ビー・エム・ダブリューに連絡をとることは極めて容易であると考えられる以上、原告には、保険料が未払いとなったことについて極めて重大な過失があるというべきである。

したがって、前記五の損害について八割の過失相殺を認めるのが相当である。

なお、原告は、原告が会社組織として、請求書等に基づいて支払いをなすのは当然で、年末は保険の切り替えが多く、一々どの保険かを意識して振込手続をすることは到底不可能であり、また、一般的に、自動車運転者が保険証券のありかについては気を払わないのであり、原告が保険証券が来ないことに気づかなくてもやむを得ないとするが、自動車の損害保険契約は、保険料の不払いが保険金の不給付に直結する点で、他の一般の取引と同列に論じることはできず、年末は個々の保険の内容を調べて保険料を振り込むことが不可能なほど保険の切り替えが多いと認めるに足りる証拠はなく、また、一般的に自動車運転者が保険証券のありかについては気を払わないと認めるに足りる証拠もない。

よって、原告の主張は理由がない。

八請求原因9の(三)について

原告は、原告訴訟代理人に委任して本件訴えを提起、追行していることは訴訟上明らかであるところ、本件事案の難易度や認容額その他諸般の事情を勘案すれば、原告が原告訴訟代理人に支払うべき手数料等のうち、被告ビー・エム・ダブリューに対して賠償を求めることのできる損害額としては、金一〇万円と認めるのが相当である。

九以上によれば、原告の本訴請求は、被告ビー・エム・ダブリューに対し金一一〇万八六三六円及びこれに対する平成三年八月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、被告ビー・エム・ダブリューに対するその余の請求及び被告安田に対する請求は、いずれも失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官星野雅紀 裁判官金子順一 裁判官増永謙一郎)

別紙物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例